いのちを尊ぶ社会をめざしてIV

2025年、日本は国民の4人に1人が75歳以上という超高齢社会を迎えるといわれています。介護職の担い手不足、老老介護、介護離職などの問題が顕在化するなか、”介護”の現状を各分野の専門家から学び、だれもが尊厳をもって生きられる社会の実現に向けた提言をいただきます。

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いのちを尊ぶ社会をめざしてIV

介護にとりくむ男性たち 小山朝子(介護ジャーナリスト)

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家族や介護施設の職員などが、高齢者の人権を侵す「高齢者虐待」が問題になっています。

「平成二十七年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」(厚生労働省)によると、被虐待者からみた虐待者の続柄で最も多いのは「息子」で40.3パーセント、二番目は「夫」で21パーセントでした。
 
現在、全国各地には介護にとりくむ家族が集い、情報交換などを行う家族会があります。都内にある家族会で世話人を務める男性は、高齢者虐待の加害者に男性が多い背景について「女性は仕事や家事、育児など、やるべきことが多いなかで、それぞれ適切な範囲内で手を抜きながら行う術を知っている。一方、男性は生活のサイクルが仕事中心だったために、介護においても仕事と同じように手を抜くことができず、理想と現実のギャップで悩みを抱えてしまうのでは」と述べています。
 
私がこれまで取材した方のなかには、献身的に奥さんを介護していた男性は少なくありませんでした。筋肉の萎縮と筋力の低下が進行する神経疾患の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発病し、人工呼吸器を使用している妻の医療的なケアと日常生活の世話を担っていた男性は、寝たきりになっている妻のために自分の起床や就寝、さらにはサービスを利用する時間をきちんと決めて介護されていました。
 
さきほど、家族会について触れましたが、近年はメンバーが男性の介護者のみの「男性介護者の会」も各地で設立されています。こうした会に参加する男性からは「介護に加え、慣れない家事をすることも負担になっている」との声も聞かれます。
 
女性と比べると、男性の場合は交流の場に参加することをためらい、素直に相談できない傾向があるようです。しかし、介護者の会に参加している八十代の男性は「ここでしか話せないことがあり、参加者の方々の助言が役立っている」と語ります。男性が介護によるストレスを抱え込まないためには、無理のない範囲でこのような集まりに参加するのも有効だといえるでしょう。
 
かつて九州で、ユニークなケースを取材したことがありました。認知症を患うある女性が一人で生活していましたが、居間にはカメラが設置されていたのです。その女性の行動は、東京で働く息子さんのパソコン上にリアルタイムで映し出され、さらに、女性の自宅の近くにある介護事業所にも同様のシステムが導入されていました。なにか問題があれば、この事業所の職員が駆けつけて対応するという体制をとっていたのです。このようなネットワークシステムを活用した介護は、比較的男性にも受け入れやすいのではないかと感じます。
 
離れた場所から家族の様子を確認する「見守りサービス」は昨今、進化し、多様化しています。例えば、その家のガスや電気ポットの使用状況がメールで届く「ライフライン型」、担当者が直接電話などで安否状況を確認し、その内容を家族にメールで届ける「コミュニケーション型」などがあります。
 
このほか、緊急ボタンを押すと第三者が駆けつける「緊急通報サービス」、食事や乳酸菌飲料を届け、本人が無事でいるかを確認する「安否確認サービス」なども展開されています。
 
この二つのサービスは、民間各社のほか、一定の条件を満たしている高齢者に対し、実施している自治体もあります。条件に該当するかどうか、各自治体のホームページなどで確認してみるとよいでしょう。
「平成二十四年就業構造基本調査」(総務省)では、介護や看護を理由に退職した人の総数は年間十万人超です。介護と仕事を両立させるためには、八月号で紹介した介護保険制度をはじめ、介護休業・介護休暇を定めた制度、前述のようなネットワークシステムなど、「使えるものはなんでも使う」ことが重要なポイントです。


【プロフィル】
小山朝子(こやま あさこ)
東京都生まれ。介護ジャーナリスト、介護福祉士。約10年祖母を介護した経験から、執筆、講演を行ない、テレビ・ラジオに出演。現在、日本在宅ホスピス協会役員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者などを務める。「ワーク介護バランス(全3巻)」(旬報社)ほか著書多数。


『佼成』2017年11月号 佼成出版社


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