露の団姫の「毎日が仏教ですねん」

上方落語の高座をはじめ、テレビ・ラジオなど多方面で活躍中の露の団姫(つゆの・まるこ)さん。プロの噺家、天台宗僧侶、そして一児の母という三つの生き方を自在に歩んでいます。「法華経は、わが人生の道しるべ」――日々の暮らしの出来事を教えに照らし合わせることで、仏教が身近なものに感じられるコミカル・エッセイ。

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露の団姫の「毎日が仏教ですねん」

にんにく注射も修行の一つ!?  露の団姫(つゆのまるこ)(落語家・僧侶)

  • 不安
  • 変化
  • 病気・障害

秋─この季節になると毎年、喉の調子が気になります。落語家になって十二年、お坊さんになって六年。声が出にくいことは一番の苦痛です。そこで、今まであらゆるものを試し、自分なりの対処をしてきました。
 
まず、いつも鞄に入れている喉の味方が、プロポリス(蜂ヤニ)入りの、のど飴です。味や匂いは独特で、舐めていると喉に染みるような痛みがある場合もありますが、これこそが効いている証拠だといいます。さらに、当たり前のことですが、手洗い、うがい、そして歯磨きも欠かせません。外出時にはマスクもして、移動中の新幹線車内での乾燥を防ぎます。
 
しかし、こうして日常的に気を付けていても、やはり秋になると仕事の忙しさに加え不安定な気候もあり、喉のイガイガや、不快感を覚えることがあります。そうなると、次に出てくるのが漢方薬です。私が毎度頼りにしているのは、半夏厚朴湯。これは喉の痛みに効果が期待できます。
 
大概の不調はこれでなんとかなるのですが、それでもさらに手ごわい場合には、奥の手が存在します。それが「点滴」です。私が通っている病院では、喉のトラブルへの応急処置として抗生物質の点滴をしてくれますが、私の場合、これを打つと劇的な効果が得られます。病院から帰る頃には「落語家とお坊さんの天敵である喉の不調は、点滴で治しますねん♪」と洒落を言えるほど回復するのです(笑)。
 
そうはいっても、やはり普段から健康体であることが一番。先日、お医者さんからあるものを勧められました。

「団姫さんみたいな芸人さんは毎日あちこち行って、体力勝負でしょ? どうです? 〝にんにく注射〟しません?」

「に、にんにく注射? それって一体どんなものですか?」
 
私の頭のなかでは、にんにくエキスを抽出したものをプスっと刺される、そんなイメージが思い浮かびました。すると先生、「あ、名前を聞くとドキっとしちゃいますけど、いわゆるビタミン注射ですよ」。なんでも、ビタミンB1を主成分とする注射のようで、風邪予防や疲労回復、肩こり、腰痛、冷え性に効果があるとのこと。ではなぜ、にんにく注射というのでしょうか? 実はコレ、ビタミンB1に含まれる硫化アリルなるものから「にんにく臭」がするため、こう呼ばれるそうです。
 
早速打ってもらうと、ものの三十秒で喉の奥からにんにくの臭いがしてきました。結構な臭いなので、にんにくが嫌いな人にはちょっとキツイかな? と思いましたが、看護師さん曰く、点滴が終われば臭いも消えるとのこと。ポタッ、ポタッと落ちる点滴に緊張もほぐれたのか、はたまた疲れが出たのか、眠くなってきました。しかし、うとうとしかけたその瞬間、看護師さんの声で起こされました。

「ところで団姫さん、今日の寄席は何時開演ですか?」
 
落語家兼尼さんという変わり者の私に興味津々の看護師さんは、その後も点滴をしている間ずっと、ありとあらゆる質問をしてこられたのでした。そこで帰宅後、思わず夫にこぼしてしまいました。

「せっかく、にんにく注射をしながらの“オフタイム”やったのに……もう少し長かったら、思わず『お願いですからゆっくりさせてもらえますか?』って言うてしまうとこやったわ」

「それは危なかったですね。でも、気が短い団姫さんにしては、よくその状況に辛抱できましたね。何でですか?」

「私だって、これでも仏教徒やもん。日々、六波羅蜜の教えを実践せなアカンねん」

「六波羅蜜? それが点滴での辛抱と何の関係が?」

「そりゃアナタ、〝にんにく注射〟なだけに〝忍辱〟はつきものです」

〈つづく〉


プロフィル 露の団姫(つゆのまるこ)
1986年生まれ。上方落語協会所属。高校卒業後、噺家になるため露の団四郎に入門。大師匠である二代目露の五郎兵衛宅で内弟子修行を積む。落語の高座、テレビ、イベント出演多数。2011年に比叡山延暦寺で出家し、天台宗の僧侶となる。プロの噺家として、尼さんとして、多方面で活動中。一児の母でもある。著書に『露の団姫の仏教いろは寄席』(佼成出版社)、『法華経が好き!』(春秋社)ほか。
露の団姫 公式ホームページ http://www.tuyunomaruko.com/

『やくしん』2017年11月号(佼成出版社


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