いのちを尊ぶ社会をめざしてIV

2025年、日本は国民の4人に1人が75歳以上という超高齢社会を迎えるといわれています。介護職の担い手不足、老老介護、介護離職などの問題が顕在化するなか、”介護”の現状を各分野の専門家から学び、だれもが尊厳をもって生きられる社会の実現に向けた提言をいただきます。

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いのちを尊ぶ社会をめざしてIV

在宅介護の知恵 小山朝子(介護ジャーナリスト)

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7月号の記事では、祖母がクモ膜下出血で倒れ、救急車で大学病院に運ばれたことについてふれました。その後ですが、祖母は一命をとりとめたものの自力では起き上がれず、介助が必要な状態になりました。

大学病院を退院後に移った病院では、床ずれや院内感染に見舞われたのでした。祖母の命を守るにはもはや在宅で看るしかない─私と母が在宅介護を決断したのは、そうした事情があったからなのです。

今にして思えば、大学病院で治療を受けている間に、退院後のプランを慎重に検討するべきでした。しかし、当時は祖母のために毎日病院に通うのが精一杯で、退院後の生活をイメージする余裕はなく、そもそも介護が長期に及ぶとは思いもよらないことでした。

現在、脳梗塞の平均在院日数は20日前後、脳出血が30日前後のようですので、入院中に家族は、予想される病状を医師や看護師に聞いたり、病院の相談室で退院後の生活について尋ねたりするのもよいでしょう。また、専門職の医療ソーシャルワーカーが相談に応じてくれる場合もありますので、確認してみてください。

親や家族の介護を在宅で始めるにあたっては、8月号で紹介したように介護保険制度の申請をしたり、介護用ベッドや車いすなどを揃えたりと、やるべきことがあまりに多く、頭の中が混乱しがちです。そんなときは、着手すべきことを書き出してみてはどうでしょう。医療面や金銭面など、やるべきことの分類ができ、着手する順番も見えてきます。

親がそれまで生活していた部屋で介護をする場合には、物をできるだけ減らしたシンプルな空間を保つことが大切です。特に、高齢になると「捨てづらい」傾向がありますので、物が多く、床が散らかっているとそれにつまずいて転倒する危険性が高まるからです。さらに、介護保険制度でホームヘルパーを利用する場合には、タオルや寝間着をどこの引き出しに収納しているかラベルを貼っておくなどしてわかるようにすると、ヘルパーが支障なく介護できます。

介護保険制度を利用するようになると、さまざまなサービスを提供する事業者との契約書など、保管しなくてはならない書類も増えてきます。こうした書類はクリアケースなどに収め、すぐに確認できるようにしておくと、探す手間が省けるのでおすすめです。

介護保険制度のサービスを利用しているお宅に伺うと、固定電話のすぐそばに事業所の担当者の名刺がいくつも貼ってあるケースが少なくありません。わが家では医療機関や行政の窓口、事業所など、頻繁に連絡するところはひと目でわかるように大きな文字で書き出し、すぐに確認できるよう電話のそばに置いていました。こうすることで、いざというときに慌てずに対応することができます。

現在、私の実家には祖母の介護に共に取り組んできた母が一人で暮らしています。私の住まいからは一時間以内で行くことができるのですが、母は銅版画家として現役で活動しており、ともに多忙なためになかなか会うことができません。私は少なくとも一、二週間に一度は電話をかけ、様子を尋ねるようにしています。最近は物流が発達していますので、母に必要なものがあれば、私がインターネットの通信販売で購入し、実家に配送してもらうようにしています。

地方から都市部の人口流入や核家族化が進むなか、遠方で暮らす家族への「遠距離介護」も増えています。日ごろは電話でまめに連絡を取り合うことができると思いますが、ときには会いに行くのも大切です。実際にふれあうなかで、相手の変化や要望を確認することができます。現在、介護のために帰省する乗客を対象に、介護帰省割引を実施している航空会社もありますので、このサービスを利用してみるのもよいでしょう。

一方、離れた親を呼び寄せる「呼び寄せ介護」は、親にとって必ずしもよい方向に進むとは限りません。高齢になって慣れない土地に住むことで、自宅に閉じこもるようになってしまったというケースもあります。子と親が良好な関係を維持するためには、適度にコミュニケーションをはかり、〝つかず離れず〟の距離を保つことも必要なのではないかと感じています。

【プロフィル】
小山朝子(こやま あさこ)
東京都生まれ。介護ジャーナリスト、介護福祉士。約10年祖母を介護した経験から、執筆、講演を行ない、テレビ・ラジオに出演。現在、日本在宅ホスピス協会役員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者などを務める。「ワーク介護バランス(全3巻)」(旬報社)ほか著書多数。


『佼成』2017年10月号 佼成出版社


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