いのちを尊ぶ社会をめざしてIV

2025年、日本は国民の4人に1人が75歳以上という超高齢社会を迎えるといわれています。介護職の担い手不足、老老介護、介護離職などの問題が顕在化するなか、”介護”の現状を各分野の専門家から学び、だれもが尊厳をもって生きられる社会の実現に向けた提言をいただきます。

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いのちを尊ぶ社会をめざしてIV

知っておきたい認知症の基礎知識 小山朝子(介護ジャーナリスト)

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「すみません、リモコンが見当たらなくてテレビを消すことができないんです」

玄関のチャイムが鳴り、シズさん(仮名)の声が聞こえてきました。シズさんはわが家の隣に住んでいた70代の女性です。認知症と診断され、「要介護1」の認定を受けていました。

厚生労働省の調査によると、65歳以上の認知症患者の数は2012年で462万人で、65歳以上の7人に1人の割合でした。しかし、2025年にはその数は約700万人、5人に1人になると見込まれています。

そもそも認知症とは、脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたために、日常生活に支障をきたしている状態をいいます。

脳の細胞が壊れることによって起こる症状が「中核症状」と呼ばれるもので、具体的には以下のような症状があります。

●記憶障害……数秒前や数分前に聞いたことを忘れ、再び尋ねるなど。

●見当識(けんとうしき)障害……季節にそぐわない服を着る、道に迷うなど(見当識とは現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなどを把握すること)。

●理解・判断力の障害……自動販売機や銀行のATMの前でまごつくなど。

●実行機能障害……調理の手順がわからなくなり、中断するなど。

このほか、認知症の初期段階ではすべてが面倒になり、以前は面白かったことにも興味がわかないと感じることがあります。

認知症にはいくつかの種類があります。四大認知症といわれているのが、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型(ぜんとうそくとうがた)認知症です。種類によってその症状は異なります。前頭側頭型認知症などは万引きをしたり、赤信号を無視して平気で道を渡るなどの行動をとることもあります。認知症は、一般的に記憶障害だと思われていますので、このような反社会的な行動をとってしまうと責められてしまうケースがあります。

認知症に関する身近な相談窓口として地域包括支援センターがありますが、前述したような行動がみられたら、まずは受診をおすすめします。認知症のなかで最も多いといわれるアルツハイマー型認知症は、薬である程度の進行を遅らせることができます。

また、認知症の診断は初期ほど難しいといわれ、検査には高度な機器と熟練した技術が必要です。全国にある認知症疾患医療センターでは、認知症であるかどうかの診断や治療、相談などを行っています。同センターに相談するほか、認知症の診察を行う医療機関については、自治体のホームページなどで紹介されているので参考にするとよいでしょう。

初期診断を受けるにあたって診察を拒(こば)む人もいます。こうしたケースでは無理強(じ)いせず、「もの忘れが治る場合があるみたいだから、一度検査してみよう」と促(うなが)したり、「心配だから、私たち家族のために診察を受けて」と頼んでみる方法もあります。かかりつけの医師や友人など、家族以外の第三者からすすめてもらうのも効果的です。

中核症状のほかに、あてもなく歩きまわる徘徊(はいかい)、過食や異食(食べ物以外のものを口にする)、幻覚、失禁などの症状が現われる場合もあります。これらは認知症の中核症状に性格、環境、人間関係などの要因が加わって起きる行動・心理症状(BPSD)です。

一般に介護者がストレスを感じるのは中核症状よりもBPSDです。認知症患者は介護する人のイライラに対して敏感に反応し、BPSDの症状を助長させてしまうことがあります。

イギリスのある心理学者が「パーソン・センタード・ケア」という概念を提唱しています。これは認知症患者を一人の人間として尊重(そんちょう)し、その人の視点や立場に立ってケアを行うという考え方です。認知症の人と接するとき、ともすると、その病気が引き起こす症状に目が向きがちですが、その人にはこれまで歩んできた尊(とうと)い人生があります。ですから、私たちは認知症を患(わずら)うみなさんの心の声に耳を傾けていきたいものです。

【プロフィル】
小山朝子(こやま あさこ)
東京都生まれ。介護ジャーナリスト、介護福祉士。約10年祖母を介護した経験から、執筆、講演を行ない、テレビ・ラジオに出演。現在、日本在宅ホスピス協会役員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者などを務める。「ワーク介護バランス(全3巻)」(旬報社)ほか著書多数。


『佼成』2017年9月号 佼成出版社


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