やくしんInterview

さまざまな仕事を通じて、その人の考え方、生き方のヒント、作り出すものに込める思いなどを聞いています。

検索


やくしんInterview

なぜ、人は絵を描くのか 阿部海太さん(画家)

  • 内省
  • 葛藤
  • 苦悩
  • 変化
  • 勉強・受験
  • 仕事
  • 宗教

自費出版した絵本『みち』が話題を呼び、注目を集める画家の阿部海太さん。瑞々しくも、あたたかなタッチで描かれる幻想的な油絵は、見る者の心を惹きつける。今年5月、初の書き下ろし絵本『みずのこどもたち』を出版。作品のテーマや創作にかける思いをうかがった。


【プロフィル】
阿部海太(あべ かいた)
1986年、埼玉県生まれ。2009年に東京藝術大学デザイン科卒業後、ドイツ、メキシコに渡る。11年、東京で絵画や絵本の制作を開始。翌年、本作りから販売までを行なうインディペンデント・レーベル「Kite」を結成。14年、Kiteより自主制作絵本『みち』を刊行。展示会「海太の本と絵」@SUNNY BOY BOOKS(15.2月)や、個展「running water」@iTohen(15.8月)など、精力的に作品展示を行なう。16年、『みち』をリニューアルしてリトルモアブックより発刊。


時空を超えてつむぐ

――この度、初の書き下ろし絵本『みずのこどもたち』を出版されました。「水」をテーマにされたのには、どのような意味があるのでしょうか。

創作というものに携わるなかで、以前から「ルーツ」というものにとても関心がありました。人間や動植物など、すべてのもののなかにある、昔からつむがれてきている〝なにか〟。装飾や表面的なものを取り払った先に、一体何が残るのだろう――。そんな、普遍的な要素を描き出したいという思いをずっともっていました。

僕はそのルーツを、ひと固まりのものとしてイメージしていたのですが、一昨年の冬に、絵本作家の荒井良二さんの個展で一枚の絵を見て、とらえ方が変わりました。その絵には、大きな鳥居のようなものと、その下をさまざまな生き物が行進している様子が描かれていました。その生き物たちの姿が、まるで一つの大きな流れのように見えたときにピンときたんです。ルーツって、どこか一か所にとどまっているものではなくて、場所や時間を超えて、絶えず流れているのではないか、と。そう考えたときに、自分のなかに「水」が浮かんできました。

大地のなかを、ごうごうと、そして脈々と流れる水――。僕が今回の作品を創作するうえでも、ずっとつながっている一つのモチーフです。

――今回の絵本もそうですが、とても印象に残る作品です。創作には、どのようなこだわりがありますか。

大学でデザインを専攻していた僕は、ファインアート(純粋芸術)に携わる人たちが学生のうちに探らなければならない、「己の創作の根本(アイデンティティー)」という壁に、卒業後にぶつかったんです。かなり悩みました。大学卒業後、しばらく海外に出ていたのですが、その際に、メキシコに住む叔母の家に居候していた時期がありました。そこで、インディヘナ(先住民)の芸術と出会ったのです。彼らの「フォークアート(土地固有の文化から生まれた芸術)」は、現代アートより断然面白かった。そこから、土地に根ざした表現が、自分にとってすごく大事なような気がしてきたのです。

その後、さまざまな作品にふれるなかで、創作にとって己のアイデンティティーは、それほど大事ではないのかもしれないと思うようになりました。

自分の個性を考えに考えた結果、自分には何もない、という境地に行き着いたのです。そこで、僕のなかに残ったのが、自分のないこの僕がどんな絵を描けるのか、そもそも絵とは何か、という純粋な興味でした。僕は、そこに人間が絵を描く理由があるような気がして……。


探究心が原動力

――人間が絵を描く理由。考えたこともありませんでした。とても面白いテーマですね。

自分が表現することも大切なのですが、それ以上に、絵にどんな力があるのか、そういった美術の内面的なことを知りたいという思いが強くあります。その探究心が、創作の原動力といっても過言ではないです。

なぜ、人は絵を描くのか。答えはまだ出ていないけれど、僕のなかで一つのキーワードはある。それは、「神話」です。

一年前の春、『神話』をテーマに個展を開いたのですが、最初は、神話に関する面白い本に出会ったのをきっかけに、割と軽い気持ちで始めたんです。でも、神話について考えたり、絵を描いたりするうちに、そもそも、神話という大きな枠のなかに、絵や芸術というものが含まれているのではないかと感じるようになった。神話は、話の表面だけを読むとファンタジーのように思えるけれど、本当は、身の回りの事柄を昔の人たちが知覚するために作った物語なんですよね。自分と自分を取り巻く世界を結びつける作業って、それは僕が絵でやろうとしていることだと。神話と絵の共通性というんでしょうか。面白い発見でした。

大地や空気、水、風……、そういった存在と人間がどんどん切り離されていっているいま、もう一度、両者をつなぐ役割が、絵にはあると僕は思います。

神話というのは、さまざまな形に変化します。物語が伝承されるなかで、ベースは同じでも地域の文化に合わせて尾ひれがついていくように変化する。普遍的なものというのは、姿形を変えながら、たえず移ろっていくんじゃないでしょうか。宗教もそうですよね。普遍的だからこそ変化する。変わらないというのは、どこか偽物のにおいがしますね。

――今回、絵本という形で作品を出された理由は?

ドイツのベルリンにいたとき、ギャラリーのパーティーに足を運んだ時期がありました。若い作家さんも多くて、確かに刺激もあった。けれど、面白くないんですよ。作品を見せたいのか、お酒を飲んでしゃべりたいのか、どっちなんだろうと。絵や作品がないがしろにされているようで、僕にはそれがすごく嫌だった。

ある日、家で寝る前に一人で読書をしていると、ふと、自分の手元にあるその「本」が、とてもうらやましく思えたんです。〈なんていい向き合い方をしてもらえる芸術なんだろう……〉と。人と本の関係性に嫉妬したわけですね。

それならば、絵も展示するだけが見せ方じゃないかもしれないと感じ、本をとおして絵をみせることを模索し始めました。最初は、画集のような物を作るところからスタートしたのですが、次第に絵本を描くようになりました。

絵本って、もっと多様性があっていいと思うんです。子どもたちがいろんなジャンルの絵本にふれるチャンスを増やせたらと願って、今回の絵本も製作しました。十人が十人、同じ絵本を見なくてもいい。僕の絵本が十人のうち一人にしか引っかからなくても、その一人にとって大切な本になれば……。

『みずのこどもたち』は、そんな気持ちを込めて描き下ろした絵本です。ゆっくりと絵を見ていただき、気に入ったページや感じるものがあればうれしいです。何年、何十年経ったときに、そういえば好きな絵本があったな、と思い出してもらえる存在になれたら、素敵だなと思います。


『やくしん』2017年6月号 (佼成出版社)


この記事を誰かに伝えたいですか?