あなたと誰かの“こころ”を足して、つなぎあう
やくしんInterview
さまざまな仕事を通じて、その人の考え方、生き方のヒント、作り出すものに込める思いなどを聞いています。
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年間の自殺者数が二万人を超える日本は、紛争や内戦が続く世界から見ても、異常と言える。
どうすれば、人びとは絶望することなく、幸福な人生を送れるのだろうか。
漫画家の山田玲司さんは、百人を超える「いまを幸せに生きている人」に話を聞き、一つの答えに行き着いたという。それは、「属さない=非属(ひぞく)」という生き方だ。
混迷する現代社会で光明を見い出す〝ヒント〟を探る―。
【プロフィル】
山田玲司(やまだ・れいじ)
1966年、東京都生まれ。漫画家。
小学生の頃から手塚治虫氏に私淑し、20歳で漫画家デビューする。オタクが女性にモテるまでの道のりを描いた漫画『Bバージン』(小学館)で一気にブレイク。女性のための恋愛エッセイコミック『モテない女は罪である』(大和書房)や、コラム『山田玲司の男子更衣室へようこそ』などを手掛ける。また、著名人へのインタビューマンガ『絶望に効くクスリ』シリーズ(小学館)や、『非属の才能』(光文社新書)など多数。どの作品にも、「どこにも属せない感覚」をもつ人へのメッセージが込められている。コミック最新作は『CICADA』(ビックコミックス)。
「属さない」こと
――山田さんは、漫画の題材として多くの著名人に取材を重ねてこられました。さまざまなジャンルで活躍する人に共通する要素が、「どこにも属さない」という感覚だったそうですね。
漫画雑誌の連載企画で、作者である僕自身が著名人に会い、その生きざまから「どうすれば世の中に絶望せず、楽しく幸せに生きることができるのか」というヒントをいただく、という内容でした。みんな、オンリー・ワンの個性と才能に溢(あふ)れていて、その源を探し続けるなかで、前衛アーティストのオノ・ヨーコさんにお会いした際、僕のなかにふっと「属さない=非属」というキーワードが浮かんできたんです。
「非属」とは、分かりやすく言えば、「みんなと同じ」「一律横並び」が求められる日本の社会において、「みんなと違う自分」を失わず、なおかつ表現し続けること。友人や同僚との関係のなかで、みんなが右を向いているときに一人だけ左を向くのは、とても勇気がいる。少しでも周りと違う部分を出せば、輪から外され、居場所を奪われますから。いじめはその典型で、誰にも大なり小なり「肝の冷えた経験」があると思います。
でも、僕は軍隊のような「みんなと同じ」がとにかく息苦しくて。小学生の頃、授業中にまったくノートを取らない子どもでした。黒板の文字を書き写す振りをして、絵を描いたり、詩を書いたり。当然、担任はそんな僕に頭を抱えていました。けれど、僕の父親は、息子を〝常識〟で判断せず、意思を尊重してくれた。また、祖母は亡くなるまで、僕が漫画家になれると信じてくれていました。そんな家族の理解があったから、僕は周りの目を気にすることなく、好きな漫画を二十年以上も描き続けられています。
取材でお会いしたみなさんも、同じように、孤独や疎外感を味わいながら、それでも自分を信じて、やりたいことを貫き通していました。だからもし、これを読んでいる人のなかに「みんなと違う自分」があるなら、恥じるのではなく、思いきり自信をもってほしい。周りから孤立して絶望していても、その経験が人間力を深め、夢を掴む力に変わると、僕は信じています。
「自分」を生きる
――協調性が尊ばれる日本社会で、集団や組織から外れてしまうのは、とても不安なことではないでしょうか。
外れるといっても、非行に走るとか、法を犯すとか、世を捨てるとか、そういう極端なことではありません。「本当はこうありたい」という自分の素直な気持ちを押し殺さないでほしいんです。
親のなかには、子どもを早く社会に適合させたいと思うあまり、一人で手遊びをしたり、絵を描いたりするのが好きな子を、無理やり集団の輪に入れようとする人がいます。僕は、それは良くないと思うんです。確かに、子ども時代は集団のルールを身につける時期かもしれない。けれど、同時に、その後どう成長していくかが左右される大事な土台作りの時でもある。だから、意味もなく周りに合わせる訓練をさせたら、それこそ自分の意思がない〝空っぽ人間〟になってしまう。