露の団姫の「毎日が仏教ですねん」

上方落語の高座をはじめ、テレビ・ラジオなど多方面で活躍中の露の団姫(つゆの・まるこ)さん。プロの噺家、天台宗僧侶、そして一児の母という三つの生き方を自在に歩んでいます。「法華経は、わが人生の道しるべ」――日々の暮らしの出来事を教えに照らし合わせることで、仏教が身近なものに感じられるコミカル・エッセイ。

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露の団姫の「毎日が仏教ですねん」

お釈迦さまのご縁で泳いでいけますねん☆ 露の団姫(つゆのまるこ)(落語家・僧侶)

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二年前の夏、沖縄へ家族旅行に出かけた際、美しい海で泳ぐ機会がありました。夫も旅行中で浮かれていたのか、私の水着姿を見て、「海で泳ぐ団姫(まるこ)さん。これがホンマの海坊主ですね」と洒落(しゃれ)を言ってきたので、仕返し……いえ、お返しに、夫のツルツルのオデコに海藻をのせてあげました(笑)。

当時一歳半だった息子は初めての海水浴を体験し、水の中に浮かぶ楽しさを覚えたようで、それから毎晩お風呂の中で泳ごうとするようになったのです。そこで夫と相談し、最近、息子を近所のスイミングスクールへ通わせるようになりました。

初めてスクールに参加した日、私も息子も緊張していました。きっと息子は水を怖がり、私にしがみついてくるものと予想していたのですが、意外にも、私が軽く脇の下を持ってやると、安心した顔で、ぷかぷかと上手に浮いています。私の腕の中で、ぷくぷくの笑顔を見せる息子と向き合いながら、とてもゆったりとした時間が過ぎていきました。

その日は八組の親子が一緒に参加していましたが、どの子もみんな、親にしがみついたり、泣き叫んだりすることなく、安心した顔で母親に抱かれているのです。その姿に親子の深い信頼関係を感じました。どの親子も、それぞれの「ご縁」によって結ばれているのだと実感し、私自身もまた、息子と親子になれた縁の有り難さを改めてかみしめたのでした。

「いのち」は、とても不思議なもので、目には見えないご縁をいただき、親の元に宿ります。なかには「私はお空からお母さんを見つけて、おなかに来たんだよ」と話す子もいるそうです。真偽のほどは分かりませんが、親子になるということは、私たちの考えも及ばない、本当に深いつながりによるものなのでしょう。

親子とは、血縁の関係だけではありません。私たち仏教徒にとっては、お釈迦さまこそが魂の師匠であり、永遠の親でもあります。人生という「大海」の中で、お釈迦さまとのご縁をいただくことがいかに難しいことなのか……法華経のなかの「一眼(いちげん)の亀」の譬(たと)えは、そのことを示しています。「妙法蓮華経妙荘厳王本事品(みょうほうれんげきょうみょうしょうごんのうほんじほん)第二十七」に、このように書かれています。

「仏の教えに出遇(あ)うのは、大海に住む一眼の亀が、百年に一度、海面に顔を出した時、たまたま流れてきた浮き木の孔(あな)に頭がすっぽり入るのと同じぐらい、めったにない巡(めぐ)り合わせである」

これほど大変な、素晴らしいご縁を、すでに私たちはいただいているのです。

ご縁の尊さは、義理の親子であっても同じです。プールの隣のレーンにお嫁さんを伴って泳ぎに来ていたおばあちゃんがいたので、話しかけました。

「おばあちゃん、お嫁さんの付き添いでスイミング、いいですね~! でも、おばあちゃんもだいぶご高齢だと思いますが、なんでスイミングスクールに通ってはるんですか?」

すると、おばあちゃんは元気に大笑いしながら答えてくれたのです。

「それはな、三途(さんず)の川を泳ぐためや」

さすがの私も、この返しには恐れ入りました。ところが、話はこれで終わりません。「三途の川を渡るため」という言葉を聞いた、付き添いのお嫁さん。血相を変えて先生のもとへ走って行き、こう訴えたのです。

「先生、すいません! うちのおばあちゃんに、ターンだけは教えないでください!!」

……私たちは、理由があって、さまざまな人たちとご縁をいただいているのです。どんなご縁も、自分の修行のために仏さまが与えてくださったもの。そのように受け入れることができたなら、いかなる荒波に揉(も)まれようとも、前へ前へと、泳いでいけるのではないでしょうか☆

〈つづく〉



プロフィル 露の団姫(つゆのまるこ)
1986年生まれ。上方落語協会所属。高校卒業後、噺家になるため露の団四郎に入門。大師匠である二代目露の五郎兵衛宅で内弟子修行を積む。落語の高座、テレビ、イベント出演多数。2011年に比叡山延暦寺で出家し、天台宗の僧侶となる。プロの噺家として、尼さんとして、多方面で活動中。一児の母でもある。著書に『露の団姫の仏教いろは寄席』(佼成出版社)、『法華経が好き!』(春秋社)ほか。
露の団姫 公式ホームページ http://www.tuyunomaruko.com/

『やくしん』2017年7月号(佼成出版社


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