いのちを尊ぶ社会をめざしてIV

2025年、日本は国民の4人に1人が75歳以上という超高齢社会を迎えるといわれています。介護職の担い手不足、老老介護、介護離職などの問題が顕在化するなか、”介護”の現状を各分野の専門家から学び、だれもが尊厳をもって生きられる社会の実現に向けた提言をいただきます。

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いのちを尊ぶ社会をめざしてIV

介護施設の現状と選び方 結城康博(社会福祉学者)

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昨今、高齢者虐待(ぎゃくたい)の実態が明るみになっています。介護士による暴力、暴言、介護放棄など、素人でも考えられないような事件が起きています。厚生労働省の資料によれば、公式に虐待と判断された介護施設における事例は、2006年度の54件に比べ、2014年度は300件と、約6倍に達しています。この間に、高齢者施設の数も増えているため、虐待と判断される件数が増えたことはいたしかたないかもしれません。ただ、このデータは「公式に虐待と判断されたもの」であり、明るみになっていないケースを含めると、この数倍はあると推察すべきでしょう。

では、安心できる介護施設を選ぶためには、どのような点を見ていくといいのでしょうか。

第一に、ボランティアを積極的に受け入れている介護施設は、良質なサービスを提供していると私は考えています。「タオルたたみ」「高齢者の話し相手」「レクリエーション」「食事介助の手伝い」など、介護施設の居住空間に多くのボランティアが活動している施設は、常に介護スタッフが外部の目にさらされています。そのうえでボランティアを受け入れているということは、自分たちの仕事に自信を持っているとも受け止められるのではないでしょうか。

第二に、検討している介護施設を見学する際に、スタッフの「離職率」を聞いてみるといいかもしれません。現在、介護業界では離職率の高さが問題になっています。厚労省の調べによると、2013年の介護施設における年間離職率は16.6パーセントで、産業全体の平均である15.6パーセントよりも少し高い数値です。しかし、働く環境が良ければ離職率も低くなります。これは利用する側から見ても悪いことではないはずです。

第三に、夜間に配置されている介護士の数も重要です。通常、要介護高齢者が入居する特別養護老人ホームや有料老人ホームは、介護士1人が要介護者2、30人を看(み)るような勤務体制となっています。ですが一つの基準として、夜勤の介護者が1人当たり26人以上の要介護者を担う人員配置となっている介護施設は、よくよく注意する必要があるように思います。もちろん、この配置でも法律違反ではありません。しかし、サービスの質を保つことができるかどうかを考えると、やはりこのあたりの数値がボーダーラインになってくるのではないかと感じます。

もっとも、介護施設は一般的に要介護者3人に対して1人の介護士、看護師を配置することが法令で義務づけられています。しかし、昼間のほうが多くの介護スタッフを配置しているため、夜間は少ない人員体制になります。ですから、優良な介護施設では全体で2.5人から1.5人に1人の介護スタッフをつけて、法令よりも手厚くサービスを提供している場合が多いのです。

第四に、施設を見学する際、「こちらの施設では、介護福祉士有資格者は何人ですか?」「介護職員初任者研修修了者(旧ホームヘルパー2級資格者)は何人ですか?」「無資格の介護士は、どの程度いらっしゃいますか?」などと、具体的な質問を投げかけてみてください。優良な介護施設は、介護福祉士の有資格者の採用に努力を重ね、無資格者の割合を少なくするよう心掛けている傾向があります。

加えて、介護スタッフへの研修制度が充実しているかどうかも重要です。例えば、「認知症ケア」「コミュニケーションスキル」「介護の基本」など、勤務時間内に職員を他の機関に派遣して教育しているか否かです。無資格者のスタッフを雇ったとしても、良心的な介護施設は研修を重ねて人材を育成していきます。そうしなければ、サービスの質が向上しないからです。

最後になりますが、介護施設を選ぶ際に建物の外見などから受ける印象には惑(まど)わされないようにしてください。確かに、自分や家族が通う場所ですから、「建物が新しい」「玄関がゴージャス」「壁面画がすばらしい」といった部分に心を惹かれることもあるでしょう。こうしたハード面も、良質な介護施設を選ぶ上では判断基準の一つとすることを私は否定しません。しかし、当たり前ですが、すばらしい建物や素敵な玄関が快適なサービスを提供してくれるわけではないことを、くれぐれも忘れないでいただきたいと思います。


【プロフィル】
結城康博 (ゆうき やすひろ) 
1969年、栃木県生まれ。淑徳大学総合福祉学部教授。社会福祉士、介護福祉士、ケアマネジャー。地域包括支援センター及び民間介護支援事業所勤務経験をもつ。専門は社会保障論、社会福祉学。著書に『在宅介護─「自分で選ぶ」視点から』(岩波新書)など。


『佼成』2017年3月号 佼成出版社


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