露の団姫の「毎日が仏教ですねん」

上方落語の高座をはじめ、テレビ・ラジオなど多方面で活躍中の露の団姫(つゆの・まるこ)さん。プロの噺家、天台宗僧侶、そして一児の母という三つの生き方を自在に歩んでいます。「法華経は、わが人生の道しるべ」――日々の暮らしの出来事を教えに照らし合わせることで、仏教が身近なものに感じられるコミカル・エッセイ。

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露の団姫の「毎日が仏教ですねん」

子育てに必要なのは……? 露の団姫(つゆのまるこ)(落語家・僧侶)

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子どもって、本当に好奇心旺盛ですね。二歳半になる息子は、行動範囲がだんだんと広がり、日々新しいものに興味をもつようになりました。親としてはとっても嬉しいことですが、それと同時にいろいろな不安がつきまとうようになりました。それが、「危険」という二文字です。

お外に出たら車に注意。公園では変質者に注意。スーパーでは試食のつまみ食いに注意……と、危険はどこにでも潜んでいます。家の中でも、台所には包丁やガスコンロがあって、目が離せません。特に最近、注意しているのが〝火〟です。火の恐ろしさを伝えるのは意外と難しく、どうしたらよいものかと悩んでしまいます。そこでふと思い出したのが、「法華七喩」の一つである「三車火宅の譬え」です。

あるところに、お金持ちの男がいました。家は広大ですが、古くてボロボロ。いまにも潰れてしまいそうな、危険極まりない家です。その家にたくさんの子どもたち、そして使用人が住み暮らしていました。

ある時、この家が火事になりました。ところが、燃え盛る炎の中、幼い子どもたちは愚かにも遊ぶことに夢中で、全く外に逃げようとしません。幼いがゆえに「火の恐ろしさ」を知らなかったのです。父親は、子どもたちを力づくで外に出そうと考えましたが、人数が多く、とても間に合いそうにありません。そこで、とにかく叫びました。 「炎は恐ろしいものだ! 早く逃げなさい!」。しかし、子どもたちは聞く耳をもちません。このままでは大切な子どもたちが焼け死んでしまう……。

そこで、子どもたちの欲しいものをよく知っていた父親は、こう言ったのでした。

「門の外に、いろんな車があるぞ! お前たちが欲しがっていた羊の車、鹿の車、牛の車だ。外に出てきたらどれでもお前たちにあげよう!」

これを聞いた子どもたちは、喜んでいっせいに外へ駈け出してきました。こうして燃え盛る家から救い出された子どもたちに、父親は彼らが欲しがっていた車とは比べ物にならない、美しい宝物で飾られた素晴らしい車を与えたのでした。

お気づきのように、「父親」とは、お釈迦さまのことです。お釈迦さまは、「貪り」「怒り」「愚かさ」という「三つの毒」の炎に常に焼かれている私たちを、この父親のように助け出してくださいます。お釈迦さまの言葉に耳を傾け、お釈迦さまが待っている世界へ飛び込むならば、自分たちが望んでいたもの、いえ、それ以上の最高のプレゼントが待ち構えていることを、この譬え話は教えてくれています。

親としても、このお話から学ぶことがあります。それは、「火は危ない」と伝えて子どもを危険から離れさせ、うまく導く「話術」ではなく、「この人の言うことなら信じられる」と思ってもらえる信頼関係を築くこと。そして、導く相手(子ども)の思いをよく理解しておくことです。日頃のコミュニケーションで信頼関係を築き、どんな言葉なら子どもの心に響くのかを知っておけば、叫ばずとも子どもを炎の中から救うことができるのです。

法華経によって「三毒の炎」の危険を知り、〝鎮火〟に努めるようになった私ですが、実はひとつだけ、法華経のおかげで逆に燃え上がってしまった炎があるのです。それは、「布教への情熱」です。このアツ~イ気持ち、読者の皆さまも、きっともっておられると思います。その気持ちを伝える方法は、まず「自分自身がイキイキと生きること」。それが、すでに布教なのです。

法華経に生きる私たちが、アツ~イ気持ちで人生を送れば、情に冷たいこの世の中もきっとホットになるはず!

諦めずに、「マイ・ホッケ・ロード」を歩いていきましょうネ☆ 


〈つづく〉



プロフィル 露の団姫(つゆのまるこ)
1986年生まれ。上方落語協会所属。高校卒業後、噺家になるため露の団四郎に入門。大師匠である二代目露の五郎兵衛宅で内弟子修行を積む。落語の高座、テレビ、イベント出演多数。2011年に比叡山延暦寺で出家し、天台宗の僧侶となる。プロの噺家として、尼さんとして、多方面で活動中。一児の母でもある。著書に『露の団姫の仏教いろは寄席』(佼成出版社)、『法華経が好き!』(春秋社)ほか。
露の団姫 公式ホームページ http://www.tuyunomaruko.com/

『やくしん』2016年12月号(佼成出版社


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