いのちの響き

世の中には、いのちを支える仕事に就いている人がたくさんいます。また、限りある自分のいのちと向き合うなかで、輝きのある人生を歩み始めた人もいます。日々 、どういのちと対峙しているのか。その思いを聞きました。

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いのちの響き

出会いを大切にしながら自分の信じた道を歩き続ける もとやす けいじさん(絵本作家)

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ユニークな設定と、色鮮やかな絵が魅力の絵本『つばめこうくう』が話題だ。夢をあきらめず絵本作家となった著者のもとやすけいじさんに、信じた道を歩み続ける大切さをうかがった。


もとやすけいじ(もとやす・けいじ)
1985年、東京都生まれ。武蔵野美術大学卒業。デザイン会社勤務を経て、「あとさき塾」で学び、絵本作家に。飛行場で働きながら描き上げた『つばめこうくう』がデビュー作。


─『つばめこうくう』は初めから終わりまで、ワクワク感がいっぱいの作品ですね。

従来の子ども向けの本には、大人の側から見た教訓などが含まれていて、子どもの情操教育に役立つものがありますが、この作品には教育的要素は盛り込んでいません。〈どんな内容なら、子どもたちが喜ぶだろうか。楽しんでくれるだろうか。自分が子どものときは、どんなことが面白かっただろうか〉と、子どもの目線に立つこと、それだけを考えて作りました。

この作品の制作中に、飛行場で荷物運びの仕事をしていたのですが、バックヤードで働く人たちの努力と、飛行機に乗るお客さんたちのワクワク感を肌で感じることができて、貴重な経験になりました。飛行機が飛び立つときは、空港のスタッフが飛行機に手を振り、見送ります。そんな場面も、絵本のなかで表現しています。

この作品は、「飛行機に乗って、南の島へ出かける」だけのストーリーです。飛行機に乗って、降りる、それだけのことから、ワクワク感が伝わればいいなと思って描き上げました。

絵本の展示会をしたとき、絵本を読んだ子どもたちが「こういう飛行機が好き」と、その場で自分だけの飛行機の絵を描いて遊んでいました。子どもたちが想像して楽しんでいる姿を見て、〈僕が子どもだったら面白いだろうな〉と感じることに、共感してくれているのが感激でした。そのほかに、「一回目は普通に読んで、二回目はオリジナルの登場人物を考えて、自分たちで物語を作って読んでいる」とか、「この本の脇役を主人公に仕立てて、お話を展開して遊んでいます」といった感想もいただきます。絵本を読んだ子どもたちが、自由に発想を膨らませているのです。子どもたちの想像力を広げる手伝いができているなら、嬉しいですね。

─絵本作家を志すようになったきっかけは?

絵を描くのが好きで、小学生のときは自分でマンガも描いていました。でも、絵は下手でした。それが、高校の美術の先生に誘われて美術部に入って、教えてもらったように描いていくと、日ごとに上達していったのです。描くたびに「前より上手くなった」と先生も褒めてくださって〈努力すれば上手くなるかもしれない〉と感じ、絵を描くことがどんどん好きになり、美大に進学したいと思うようになりました。美大を目指す仲間の存在も大きかったですね。

将来を心配した両親からは反対されましたが、好きなことを続けたいという気持ちに嘘はつけなかった。両親を懸命に説得して、美大に進学させてもらいました。

大学の文化祭の企画展で絵本を制作したとき、絵本作りの面白さを知りました。友人たちからも、「絵本作家に向いているんじゃない?」と言われるほどだったのですが、作家で身を立てるのは簡単なことではありません。卒業後は、デザイナーとして印刷関係の会社に就職し、ウェブデザインの仕事に就きました。仕事は楽しかったのですが、〈絵を描く仕事がしたい。絵本を作りたい〉という思いをどうしても捨てきれず、二年で会社を辞め、絵本のワークショップで約半年間学んだあと、プロの絵本作家を養成する「あとさき塾」の門をくぐりました。

「あとさき塾」は、絵本の出版を前提とした塾ですから、講師の方から厳しい意見をいただきます。言われたときはショックですが、夢をかなえるためには落ち込んでいる場合ではありません。助言を受けとめて、ほかの絵本をたくさん読んだり、いろんな人に意見を聞いたりして、修正できるところは修正する。アイデアが浮かんだら、すぐに描く。その繰り返しを二年間続けました。そして、幸運にも作品を認めていただき、絵本作家としてデビューすることができました。僕の行く末を心配し、それでも僕の意志を尊重して、応援してくれた両親には、感謝しきれないですね。



─夢や希望をかなえるのは簡単なことではないと思います。未来に羽ばたく子どもたちにひと言─。

子どもたちには“これが面白い。これが好きだ”という感覚を忘れずにもち続けてほしいと思います。大人になると、“好きなことを続けているだけでは生活できないかもしれない”と現実的なことばかりを考えて、いつの間にか、好きである感覚も、純粋な思いもあきらめてしまいがちです。

好きなことが生涯の仕事になるとは限りません。僕も、明日はどうなるか分からない暮らしをしています。でも、信じてやっていれば、結果はどうあっても、少なからず何か大切なものが見えてくるのではないでしょうか。とにかく自分を信じて進んでいけばいいんじゃないかなと思うんです。



─信じた道を歩み続けることが大切なのですね。

自分を貫いて歩くことには、不安もあります。だから、同じ道を志す人、まったく立場が異なる人、いろんな人と出会って話を聞くことも大事だと思います。出会って、話を聞いて、さまざまな人生観、価値観を学ぶことは、自分の生き方の参考になるからです。

パソコンやスマホがあって、人と直接会わなくてもいろんなことが済ませられる時代ですが、人と会うことだけは、大事にしないといけないんじゃないかな。初めて顔を合わせるときは緊張しますし、怖いと思います。でも、勇気を出して、自分から会いに行く。好きなものを見つけて反応していけばいい。それが、次のステップになります。動き出せば、そこから世界が開いて、物事が変化していきます。就職も、絵本のワークショップも、飛行場で働くのも、自分が面白そうだなあと思って、飛び込んだところから始まりました。何かを始めるときは気後れしますが、好きだという気持ちが自分を後押ししてくれます。

上手くいかないこともありますが、たいていのことはなんとかなるんじゃないかと思います。そうやって、僕は信じた道を歩むことができています。さまざまな出会いをいただいたことに感謝して、これからも“好きだ”という感覚を忘れずに、前に向かって進んでいきたいと思います。

『やくしん』2016年12月号 (佼成出版社


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