いのちの響き

世の中には、いのちを支える仕事に就いている人がたくさんいます。また、限りある自分のいのちと向き合うなかで、輝きのある人生を歩み始めた人もいます。日々 、どういのちと対峙しているのか。その思いを聞きました。

検索


いのちの響き

塀の中に無条件の愛を届けたい Paix2(女性デュオ)

  • 内省
  • 感動
  • 仕事
  • 死
  • 人権

Paix2(ペペ)
北尾真奈美(きたおまなみ)さん(写真左)と井勝(いかつ)めぐみさん(写真右)による女性デュオ。01年4月、コロムビアミュージックエンタテインメントよりメジャーデビュー。02年から全国各地の刑務所や少年院で「プリズンコンサート」を開始し、これまでに361回のコンサートを実施(15年4月現在)。NHK教育テレビの番組のエンディング曲を歌う。これまでの功績が認められ、二度にわたり法務大臣表彰を受賞。昨年、保護司の任命を受ける。






結成十五周年を迎えた女性デュオPaix2(ぺぺ)は、全国の刑務所や少年院などで、三百六十一回にわたり「プリズンコンサート」を行なっている。受刑者を励ます歌に込められた思いとは──。

──プリズンコンサートを始めたきっかけは。

北尾 地元の鳥取県倉吉市にある警察署の署長さんから、「曲がとてもさわやかだから、刑務所で歌ったら喜ばれるかもしれない」と言われて、行くことになったんです。当時はまだメジャーデビューしたばかりで、ステージを踏む回数もそれほど多くなく、今後の経験になればという思いで参加しました。ところが、実際に鳥取刑務所へ慰問コンサートに訪れると、その気持ちは一変しました。受刑者の皆さんが微動だにせずパイプ椅子に座っていて、重苦しい雰囲気が漂っていたからです。そして、本番を迎え、「こんにちは! Paix2でーす」と明るくステージに上がりました。ところが、射るようなまなざしが一斉に向けられて、そのまま「さようならー!」って帰りたくなりました。

井勝 皆さんの目つきが怖くて、最初は緊張しっぱなしでした。しかも、どんなに笑顔で歌っても、拍手以外、まるで反応がないんです。物音ひとつしない会場で、しかも一体感がまるで感じられない。はたして本当に喜ばれているのか気がかりでした。あとから分かったことですが、受刑者には、あらかじめ『よそ見をしてはいけない』『私語は厳禁』『手を顔より上に挙げてはいけない』といった規制がいろいろとあったようです。

北尾 そういえば、コンサートを始めて間もないころ、忘れられないエピソードがあるんです。ある刑務所のコンサート会場でのことです。そこには、「歓迎! Paix2コンサート」という大きな看板がかかっていました。受刑者の誰かが描いてくれたに違いないと思い、「これを描いたのはどなたですか?」と尋ねました。そうしたら、「はーい」という男性がいたので、「一人で描いたんですか」と聞いたら、「嘘うそです」って。それでつい私は「そんな嘘ばかりつくと、また罪がひとつ増えちゃいますよ」とサラリと言ったんです。言ったあと、次の瞬間、サッと血の気が引いて、〈終わった……〉と思いました。でも、周りを見渡すと、なぜか大爆笑の渦が起こっているではありませんか。それまで私は、あれは言っちゃダメ、これもダメという感じでしたが、この一件以来、気持ちが吹っ切れて、自然体でふれあえるようになったんです。

──プリズンコンサートを続ける理由とは。

井勝 プリズンコンサートは、手弁当の慰問コンサートです。交通費、宿泊費など、すべて自分たちの持ち出しです。そのため、北海道から九州まで、すべて、マネージャーの運転するワゴン車で移動するんです。高速道路代が払えなくて、一般道を走ることもありましたし、一日おにぎり一個で済ませることもありました。精神的にも、肉体的にも、極限に達して、〈これ以上続けていくのは無理〉と感じたこともあります。それでも、なんとか続けてこられたのは、私たちのことを心待ちにしてくださっている皆さんの思いに応えたいからなんです。

北尾 それに、歌って、ものすごい力があるものだと思うんです。どれほど人生に絶望したとしても、歌を聴くだけで、心が明るくなったり、生きる希望がわいてきたりするじゃないですか。犯罪に手を染めてしまう人の中には、複雑な家庭環境で育った方もたくさんいます。でも、小さいころ、おばあちゃんの子守唄を聴きながら安心して眠りについたとか、無条件に愛されたという記憶が必ずどこかにあるはずなんです。そんな記憶がふと蘇るからなのでしょう。日常のありふれた幸せをテーマにした曲を歌うと、涙をこらえて、鼻をすする音があちらこちらから聞こえるんです。〈自分の犯した罪を反省し、もう一度人生をやり直したい〉。そう心に誓う人が一人、また一人と現われてきたように思います。今では、社会復帰された方から、たくさんのお手紙や花束をいただきます。また、Paix2のライブ会場に足を運んでくださったり、フェイスブックやブログで近況を報告してくれる人もいて、本当に嬉しい限りです。


──今後の展望は。 

井勝 私たちはPaix2として歌手活動を続ける限り、受刑者の皆さんが人として本来の自信と誇りを取り戻すお手伝いをしていきたいと思っています。コンサートのとき、私は看護師時代の経験をお話しさせていただいています。「生きざまは死にざま」という内容の話ですが、人はどのような生き方をしてきたかで、死の瞬間、幸せだったか、そうでなかったかが決まるということです。生きていれば、いくらでもやり直しは可能なのです。それから今後の目標として、NHKの紅白歌合戦に出場できたらと思っています。「犯罪のない社会を目ざして、本当の幸せとは何か」というメッセージを広く社会に発信したいのです。人としていかに生きるべきかを、テレビを通じて問いかけたいとも思っています。

今年は結成して十五周年を迎えました。六月十七日には、ミニアルバム『し・あ・わ・せ』が発売されます。これからも歌を通じて、多くの人に心からの愛を届けられたらいいなと思っています。

『やくしん』2015年6月号(佼成出版社


この記事を誰かに伝えたいですか?