いのちの響き

世の中には、いのちを支える仕事に就いている人がたくさんいます。また、限りある自分のいのちと向き合うなかで、輝きのある人生を歩み始めた人もいます。日々 、どういのちと対峙しているのか。その思いを聞きました。

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何度も同じ行為を繰り返してしまう 有園 正俊さん(OCDお話会(強迫性障害の患者会)世話人

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有園 正俊(ありぞの まさとし)
1960年生まれ。精神保健福祉士。86年、青山学院大学理工学部卒業。2009年、武蔵野大学通信教育部人間関係学部心理学専攻卒業。「もも こころの診療所」カウンセラー。強迫性障害を克服した経験を生かし、webページ「OCDサポート 強迫性障害の案内板」を制作・運営し、患者会「OCDお話会」を主宰。










──強迫性障害(OCD)とはどのような病気ですか。

たとえば、「きれい好き」といった度を越して、過剰に手を洗う。お風呂からなかなか出てこない。また、戸締りが気になって、何度も確認してしまう。提出書類の確認が高じて、提出が遅れてしまう。本人も「こんな自分はおかしいのではないか」と自分の行為に違和感や苦痛を感じているのに、やめられない。そのように、汚れを落とさなければならない、確認しなければならないといった、ある特定の考えが自分の意思に反して繰り返し浮かび(強迫観念)、その強迫観念から生じる不安や恐怖を打ち消すために、同じ行動を繰り返すことを自分に強いる(強迫行為)のが、OCDの症状です。

発症の原因の特定は難しいのですが、精神的につらい時期を経験したことがきっかけとなったり、女性の場合は妊娠、出産、更年期といったホルモンバランスの変化がきっかけになることもあります。また他の心の病を持つ人が併発することも多い病気です。

念入りに手洗いをしたり、戸締りを確認する人は少なくないと思いますが、OCDの特徴は、本人が強迫行為をすることに精神的な苦痛を感じているということです。強迫行為を行なうと一時的に不安は小さくなりますが、また同じような場面に出合えば強迫観念が起こり、強迫行為を行なってしまいます。「外は不潔」と思っている人は、家に帰ると服を全部着替え、シャワーを浴びる。再び用事があって外出すると、また服を着替えてシャワーを浴びる。おかしいと思っても自分ではコントロールできないので、強迫行為はだんだんエスカレートしていきます。一日のうちで、強迫行為に一時間以上かかり、日常生活に支障を来すようになると疾患の域となり、重症化すれば学校や会社に行けなくなってしまう人もいます。

──症状が軽いうちに対処することはできないのでしょうか。

洗い方や確認が念入りな人が、それが高じてOCDになるとは限りません。ただ、発症した後に、強迫性障害という病気を知った人がほとんどなので、まず病気の存在を多くの人に知っていただければと思います。そして、自分や家族がもしかしたらOCDかなと思ったら、病気への正しい知識を知ることが役立ちます。

専門医に出会えれば治療は可能ですが、まだ専門医が少ないのが現状です。何度か通院しても症状が改善されず、あきらめて引きこもってしまう場合もあります。

私は二十数年前にOCDにかかりました。当時は、まだ精神的な悩みに関する相談機関が充実しておらず、精神科にかかるのも怖いイメージがありました。自分で治療法を調べ、現在の認知行動療法と同様のことを行ない、病気を克服することができました。その後、インターネットによってさまざまな情報を得るようになると、OCDで悩んでいる人がたくさんいると知り、「何か役に立てることはないか」と思いました。ウェブサイトに自分の体験を書き込み、同じ悩みを抱えた人たちとつながりをもつようになったのです。そのうちに、精神障害の仕事にかかわるようになり、実際に会ったほうがいい、みんなで体験を分かち合えた方がいいと考えるようになり、「OCDお話会」を開くことにしました。

OCDだけでなく精神的な悩みを抱える人たちは、自分の気持ちを他人に伝えることが苦手です。一人で悩みを抱えて悶々としていたり、家族もどうしたらいいか困っていることが多い。ですから、お話会に参加することで、「ここは安全で、安心して話せる場」と感じてもらえればいいと思っています。お話会は治療の場ではなく、専門機関への紹介を目的としたものでもありませんが、参加者のなかには治療中や症状が改善した人もいるので、有効な治療法や対処法に関する情報も得られ、治療に結びつくこともあります。

──OCDの人とふれあうときに大事なことは。

性格と病気は一致しませんが、OCDの当事者の方は内気な人が多いようです。さらに自分でも、自分の行動に違和感があるので、「病気がばれたらどうしよう、他人に危害を加えてしまうのではないか」と常に周囲を警戒しています。

ですから、過剰に手を洗っているとか、戸締りを確認しすぎるといった目に見える部分を治してあげようとすると、それが裏目に出ることが多いのです。自分自身、苦痛を感じていながら、やめられないのですから。親切心であっても行動の過剰さを不用意に指摘したり、治療を勧めたりするのではなく、まずは、そのつらい気持ちを聞いてあげてほしいと思います。聞いたからといってすぐに解決するわけではありませんが、ゆっくりと心の声を聞くふれあいをしていただくことが大事です。そして「OCDお話会」のほか、全国に数か所「OCDの会」「強迫友の会OBRI(オブリ)」などの自助グループがあります。実際に体験者に会うことで自分だけじゃないと思え、参考になる情報を得ることもできます。インターネットで簡単に検索できますから、利用してみてください。


●強迫症状の悪循環



『やくしん』2014年10月号(佼成出版社


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