いのちの響き

世の中には、いのちを支える仕事に就いている人がたくさんいます。また、限りある自分のいのちと向き合うなかで、輝きのある人生を歩み始めた人もいます。日々 、どういのちと対峙しているのか。その思いを聞きました。

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いのちの響き

大切なのは日頃の温かいふれあい 佐藤 良子さん (大山自治会会長)

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佐藤 良子(さとう よしこ)
1942年、宮城県生まれ。99年から自身の住む、東京都立川市の大山団地で自治会会長として活躍。加入率100パーセント、孤独死ゼロを実現。2004年、内閣府男女共同参画局「女性のチャレンジ賞」受賞。11年、地域活動功労者賞を東京都より受賞。全国各地で講演活動も行なっている。著書に『命を守る東京都立川市の自治会』











──大山団地は、高齢者が全体の二十九パーセントを占めているにもかかわらず孤独死ゼロを実現しています。どのような取り組みをしているのですか。

特別な取り組みをしているわけではないのです。ただ、この団地にご縁のあった人たちが「ここに住んでよかった」と言えるような、安心安全な町づくりを目指しています。

住民の状況を知るために、全世帯の住民名簿だけでなく、六十五歳以上の方、子どもだけを区分した名簿も作成しています。高齢者対策としては、自宅の両隣を見守る「見守りネットワーク」、自分自身の終焉の際に周囲の人に伝えたいことを記しておく「終焉ノート」の作成・販売などがあります。また、大山ママさんサポートセンターによる子育て支援活動、清掃活動、運動会や防災訓練といったイベントも行ないますが、一番大事なのは日頃のふれあいだと思っています。

私は住民の皆さんの名前を呼んで挨拶をし、「具合が悪かったようですけど、いかがですか」などと、何かひと言、お声かけをしています。自治会の活動に苦情を言う人には、「自治会の活動を真剣に考えてくれて、ありがとうございます」と伝えたうえで話し合い、「いまの体制に不満なら、一緒に変えていきませんか」とお誘いします。

以前、違法駐車を注意したことをきっかけに、相手から「ぶっ殺す!」とまで言われたこともありました。でも、私は一歩も引かず、とことん話し合いました。いまではその人は自治会の区長を引き受け、自治会に協力してくださっています。やはり大切なのは話し合うこと。言葉一つで、人の心を傷つけることも、温めることもできるのです。相手を受け入れ、心に響く言葉で対話を続けることは大事ですね。

また、自治会では住民の要望に百パーセント応えたいと思い、私や役員が自治会活動用の携帯電話を持って、何か困ったことがあればすぐに対応できるようにしています。


──どのような要望がありますか。

生活保護を受けたいが手続きについて教えてほしい、網戸がはずれたから直してほしい、子どもが不登校になった……。ありとあらゆる困り事、相談事が寄せられます。その一つ一つに応えていきます。私一人ではなくて、役員みんなで対応します。

この頃は、小学生が相談に来ることもあります。「夕飯のメニューが一週間同じで……」との相談には、「あなたにも作れるメニューを教えてあげるから、お家で作ってあげたら?」と答えました。「会長さん、こんにちは」と声をかけてくれる子もいます。小さなふれあいの積み重ねが信頼につながると実感しています。

高齢でごみ捨てや買い物ができない方のためには、住民のボランティアが手伝いに行きます。お世話になるばかりでと、心苦しく思うことはありません。私たちに子育ての仕方、生活の知恵を教えてくれた人生の先輩たちです。いままで地域活動や奉仕活動をして心の貯金をしていたのですから、これからはその貯金を使えばいいのです。動けなくなったら、助けてもらう。お世話になった人が、恩返しをする。心の循環社会です。

高齢でも元気な方には「集金や広報紙を配ってもらうだけでも助かるから」とお願いし、積極的に自治会の活動に参加していただくようにしています。障害のある方も同じです。車いすの方でも、当番が回ってくればごみ置き場の清掃をしていただきます。サポートする人がついていれば役割を果たせるのです。みんなが参加して、一人ひとりが町をつくるという自覚を持つことが大切だと思います。


──地縁が薄くなっているいまの時代、住民の皆さんの理解を得るのはご苦労も多かったと思います。

よく、そう言われますが、苦労と思ったことはありません。私は皆さんと共に生きていくことが楽しいのです。

私は昭和五十一年に大山団地に越してきました。三人の幼な子を抱え、近くに身内もいない私を、近隣の皆さんがあれこれと世話してくれました。子どもが熱を出せば「他の子は見てあげるから、病院に行っておいで」、私が病気になれば「具合悪いんだって? おかゆ作ってきたよ」と、温かくふれあってくださいました。「子どもがうるさくてすみません」とお詫びに行けば、「子どもはうるさくないわよ。あなたの怒っている声がうるさいわよ」とご注意を受けたり(笑)。みんながつながり合っていることで、とても助けられましたし、安心して、楽しく暮らすことができました。

でも、団地内も高齢化が進み、引っ越してきたからと挨拶することも少なくなり、人と人との関わりが薄くなっていきました。地方では過疎化の問題がクローズアップされていますが、都市部はたくさんの人が同じ地域で暮らしているのに、心は一人ぼっち。都市型の町おこしが必要だと思いました。もう一度、私が育ててもらったような地域にしたいとの一心で自治会長になりました。そのときに立てた「市(市民、住んでいる人が主人公となった町づくり)能(住民の能力の活用)工(創意工夫で取り組む姿勢)商(コミュニティービジネスを作り、住民に還元する)」を柱に、私を支えてくださる自治会の仲間に感謝しつつ、人と人とがつながり合う地域づくりを、これからも根気よく続けていきたいと思います。

『やくしん』2012年11月号 (佼成出版社


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