いのちの響き

世の中には、いのちを支える仕事に就いている人がたくさんいます。また、限りある自分のいのちと向き合うなかで、輝きのある人生を歩み始めた人もいます。日々 、どういのちと対峙しているのか。その思いを聞きました。

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いのちの響き

生きてるだけで百点満点 鈴木 せい子さん (助産師)

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鈴木 せい子(すずき せいこ)
1947年 群馬県生まれ 鈴木助産院院長 (社)群馬県助産師会会長。助産師歴32年の開業助産師 命が粗末にされる今日を憂い、全国各地に出向き「いのち大切さ」について講演活動や著作活動、またマスメディアを通じて「いのちの現場からのメッセージ」を伝えている。小学校の道徳小4副読本を執筆。NHK第一放送ラジオ深夜便 こころの時代「いのちの授業」出演。NHKニュース解説時論公論「生きてるだけで百点満点」、TBS「女子才彩」に出演。著書に、いのちの大切さを伝える絵本『生まれてきてくれてありがとう』(ぱすてる書房)『生きてるだけで百点満点』(サンマーク出版)
ブログ「せいこのいのちの対話」 http://hagukumi.jugem.jp/





そのままのあなたでいい

──どのようなきっかけで「いのちの授業」を始められたのですか。

助産院を開業して十七年めのとき、十七歳の少年の犯罪が相次ぎました。私はふと、「十七年前に私が取り上げた子どもたちはどうしているかな」と思いました。もし人の道からはずれているようなことがあったら、生まれてきたときの状態やお母さんの様子を、一部始終話してあげたい、と思ったのです。
これだけ医学が進歩している日本でも、毎年約四十人の母親が出産のためにいのちを落としています。お母さんは自分のいのちと引き換える覚悟で出産に臨むのです。赤ちゃんも、生まれたいという力を振り絞って生まれてくるのが心音から伝わります。
それなのに今の日本には、「生まれてこないほうがよかった」「死にたい」と思っている子どもがたくさんいます。そんな子どもたちに、「生まれてきただけですごいことなんだよ」「お母さんも命がけだけど、自分でも頑張って生まれてきたんだよ」と伝えたいのです。
それは、助産師としていのちの誕生の現場に立ち合っている「証言者」だから言えることです。生まれたときのありのままを伝えて、悩んでいる子どもたちがふと立ち止まって自分を見つめ直すきっかけにしてもらえたら、という願いを込めて授業をしています。

──具体的にはどんな授業ですか。

紙に針を刺して「この穴、何か分かるかな?」と尋ねます。「これはね、最初にお母さんのおなかの中に芽生えたときのあなたたちの体の大きさです」と説明すると、「うそー」「ちっちゃーい」という反応が返ってきます。
お母さんは、砂粒の二分の一ぐらいの大きさの受精卵がおなかに根付こうとするのを、なぜかバリアを張って拒絶します。そのとき赤ちゃんは、「お母さんのところに生まれたい」と全身から酵素を分泌してバリアを溶かすのです。砂粒の二分の一の自分が、すでに生きようとする意志を備えているのです。誰もがおなかの中にいるときからすごい能力を持っているのです。
私たちのいのちは、「授かったいのち」というだけではなく、自分自身が生きようと「選びとったいのち」でもあるわけですね。だから子どもたちには、「自分ってすごい」と気づいてもらいたいのです。

──自分の存在に自信を持つということですね。

はい。「生きてるだけで百点満点」。テストで百点が取れなくても、スポーツができなくても、今、生きている、そのままのあなたでいい、ということです。

安心感に包まれた家庭を築いて

──親にも受けてもらいたいですね。

小学生の授業には必ず親にも参加してもらっています。そして、お母さんたちには三つのお願いをします。まず第一に、生まれたときのことをお子さんに話してください、第二に子どもが生まれて「おぎゃー」と言ったときの感動の瞬間に戻ってください、三つめは、もう一度お子さんをおなかの中に入れてください、ということです。
赤ちゃんは、子宮の中の羊水という温かいお湯にくるまれて守られています。だから、子宮の代わりに安心できる温かい家で日常のかかわりを作ってくださいというお願いなのです。

──家庭のあり方を見直してほしいということですね。

子どもたちも、いのちの大切さを頭では理解できているのかもしれませんが、心に響いていないから「生まれてこなければよかった」などと思うのです。どうしたら心の奥深くに受けとめることができるか。それには、親や身近にいる人たちが、いかに自分のことを大切にしてくれているかという安心感を持たせるようなかかわり、ふれあいが必要です。そして、自分が認められていることをしっかりと感じ取れれば、どんな大変な事態でも乗り越えていく力となることでしょう。

人と人とのかかわりは循環する

──たくさんの感想文が寄せられているそうですね。

疲れたときは、感想文を読むと、私自身、人のお役に立てた喜びを感じ、元気になります。ある中学生は、次のような感想文を書いてくれました。『私は何の取り柄もない。どうせただの物なんだ。死んでも誰も困らない。生きる資格がないと思っていました。こんな私にだって生きる理由があって、私が生まれたときみんなが喜んでくれたと聞いてうれしかった。生きる喜びを感じることができました。お母さんにありがとうと言いたいです』。
私も子どもたちからパワーをもらっているのです。人と人とのかかわりは循環するのですね。
助産師になって三十年、千人以上の赤ちゃんの誕生をお手伝いしました。その中には、ひとりとして生まれないほうがよかったという子はいません。
私は、生まれた赤ちゃんが最後の最後まで豊かに生きられるように見守っていきたいと願って授業をしています。お産は待ってはくれませんから、助産師の仕事をおろそかにするわけにはいきません。しかし、外に向けた活動も私にとっては大切な役目。大変ですが、やりがいを感じます。
最近ブログを始めました。ブログからも、「生きてるだけで百点満点」というメッセージを届け続けていきます。

『やくしん』2010年9月号 (佼成出版社


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